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組織風土改めなければ 自衛隊

セクハラに鈍感で性被害を見逃してきた防衛省自衛隊の責任は重い。女性自衛官を退職に追いやった組織の体質を、根本から改める必要がある。  元陸上自衛官の五ノ井里奈さん(23)が、福島県の郡山駐屯地所属時の性被害を訴えていた問題で、防衛省はセクハラがあったことを認め、謝罪した。  

内部調査の結果、所属の中隊で日常的に性的な発言や身体接触のセクハラ行為があったほか、2020年秋、21年6月と8月には、演習場の宿泊施設で押し倒されるなどの被害が確認された。  

ほかにも複数の女性隊員がセクハラ被害を受けていたことが判明した。  「日常的」という言葉に衝撃を受けるが、その裏にあるのはセクハラを容認する組織内の空気である。  

理解できないのは、当時、五ノ井さんの訴えを中隊長が上司に報告しなかったことだ。多くの隊員が見ていたにもかかわらず、直後の自衛隊の調査では誰からも目撃証言が得られなかった。  

組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)していたのではないか。   宮城県出身の五ノ井さんは東日本大震災で被災した際、支援を受けた女性自衛官に憧れ自衛隊員となった。夢を抱いて入隊したのに、さぞや無念だろう。  

言うまでもなくセクハラは重大な人権侵害だ。  

関与した隊員の謝罪や処分はもちろん、浮き彫りになった組織風土にもメスを入れる再発防止策を求めたい。

 

問題を大きく動かすきっかけをつくったのは、泣き寝入りせず声を上げることを選んだ五ノ井さんの勇気だった。  

今年6月に自衛隊を辞めた後、実名で被害を告発。インターネット上で10万筆以上の署名を集め、防衛省に調査を要請した。  

実名を公表し被害を語ることに、どれほどの覚悟を必要としたか。告発後、被害者バッシングともいえる誹謗(ひぼう)中傷に苦しんだというから、大きなプレッシャーの中での闘いだったのだろう。  

一連の動きを踏まえ浜田靖一防衛相は、全自衛隊を対象にハラスメント被害に対する特別防衛監察の実施を表明した。徹底した調査で悪弊を断ち切らなければならない。  

この問題では、強制わいせつ容疑で男性隊員3人が書類送検され不起訴となったが、先月、郡山検察審査会が「不起訴不当」の議決をしている。「被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」としたためだ。検察も捜査を尽くすべきだ。