教諭の懲戒処分を巡り、免職時に原則氏名と学校名を公表するとの基準を定めている都道府県の教育委員会で、静岡県以外に「在校生がショックを受ける」といった理由で学校名を非公表とする運用はなく、最近の事例もないことが、読売新聞の調査で分かった。静岡県教委が免職にした教諭の勤務先の学校名を、在校生への配慮で非公表としたことについて、教育関係者から疑問の声が上がっている。(鍜冶明日翔)
「教育委員会に諮って非公表を決めたので、こちらでは判断を変えられない」
教諭2人の免職を発表した9月21日の記者会見で、県教委幹部は釈明を繰り返した。県教委は8月に公表基準を見直し、免職にした教諭は氏名だけでなく、学校名も原則公表すると改めたばかりだった。
県教委は今回、「被害者やその関係者のプライバシーなどを侵害するおそれがある場合」と定める例外規定を適用。在校生は「ショックを受ける可能性がある」ため「被害者」にあたると解釈した。県教委幹部によると、非公表は池上重弘教育長の意向で、5人の教育委員も賛同したという。
県教委の対応について、教育現場のコンプライアンスに詳しい日本女子大の坂田仰教授(教育制度論)は「原則公表し、被害者本人の保護のため非公表にする場合があるという基準であり、原則と例外が入れ替わるような拡大解釈はすべきではない」と指摘する。
他県の教委も公表基準に例外規定を定めている。だが、在校生への影響を理由に非公表とする運用をする自治体はない。広島県の公表基準では、「児童・生徒への教育的配慮が必要と判断される場合」との例外規定がある。被害者の特定を防ぐことが目的で、在校生などに拡大解釈することはないという。北海道でも、「児童生徒、学校及び地域への教育的な配慮が必要と判断される場合」とあるが、少なくとも直近5年で適用されたことはなかった。
愛知県では校内での盗撮でも公表
多くの教育委員会が定める教諭免職時の公表基準で、学校名を公表しない例外規定の「被害者」は被害者本人のことを指し、「被害者等」「被害者や関係者」との文言があっても、その範囲は「家族や兄弟姉妹」と捉えるのが一般的だ。県教委が「被害者」を在校生全員と拡大解釈した運用は異例とも言える措置で、他の都道府県の教委の担当者は「何も公表できなくなる」と指摘している。
他県の教委からは、静岡県の対応を疑問視する意見が相次いだ。富山県など多くの担当者は「氏名を出して学校名を隠す対応には、違和感しかない」と話す。教員の人事異動はすべて公表されており、勤務先は簡単に調べることができるためだ。高知県の担当者は「そこまで拡大解釈すれば、何も公表できなくなる。説明責任を果たせず、身内に甘いと言われかねない」と懸念する。茨城県も「学校名はすべて公表しなくてよくなる」と驚く。
学校名の公表を巡っては、校内の盗撮事案であっても多くの県教委が公表している。愛知県は昨年11月、勤務先の中学校で盗撮した教諭について、逮捕時に氏名と学校名が報道されており、被害者は校内にいたが「隠す理由がない」として免職時に公表した。宮城県や群馬県、福岡県でも、公表した事例がある。