軍事専門家によると、ロシアの侵攻に対して巻き返しを図るウクライナ軍は、退却するロシア軍から兵器を鹵獲(ろかく)し、その一部を戦闘に投入している。
ロシアや近隣諸国の軍は、その多くが旧ソ連時代の装備を使っている。ウクライナ軍も、ロシア軍が残した兵器を操作するのにさほどの訓練を要さない。
ロシア軍は2月に侵攻を開始して以降、ウクライナ領土のかなりの部分を掌握した。これに対してウクライナ軍も反転攻勢を強め、8月以降には北東部や南部で一部を奪還した。
英情報分析会社ジェーンズ(Janes)のアナリストは匿名を条件に、「ウクライナ軍は多くの地上装備品を鹵獲した」と述べた。その多くは、東部ハルキウ(Kharkiv)州の戦闘で得られたものだという。
どの程度の装備をウクライナ軍が鹵獲したのかは不明だが、同アナリストは、少なくとも車両200台、戦車45両、歩兵戦闘車両70台、大砲30門を手に入れたと推計。「ハルキウ州では確かにロシア兵が逃亡した。その際、装甲車両よりも民間車両の方が速く逃げられると判断したようだ」との見解を示した。
AFP取材班は南部ヘルソン(Kherson)州で10月のある朝、破損した20両前後の戦車やロケット発射装置、輸送車両が放置されているのを目撃した。その数時間後には、このうちの6点が運び去られたようだった。
前線から数キロの地点では、破壊されたBM27自走式多連装ロケットランチャー「ウラガン(Uragan)」3基、多連装ロケット砲BM21「グラート(Grad)」1基、兵員輸送車1台が放置されていた。
あるウクライナ兵はAFPに対し、「装甲車両は南を向いている。これは乗員が逃げていたことを示している」と語った。この兵士によると、12基前後の使用可能なウラガンが近く、ウクライナ軍の装備に加えられる見通しだ。
ある衛生兵は「われわれが使えないよう少量の火薬をまき散らしただけで砲弾を残していったという事実は、ロシア兵が慌てて撤収したことを物語っている」と述べた。
米シンクタンク「新米国安全保障センター(Center for a New American Security)」のマイケル・コフマン(Michael Kofman)氏は、奪ったすべての装備がウクライナ軍にとって有用だとの認識を示した。
同氏は「(ウクライナ軍の)攻撃では、多数の民間車両や軽装甲車両が使われている」が、「それは特別な戦術というわけではなく、戦闘装甲車両が不足しているからだ」と分析した。
ロシアによる侵攻開始後、西側諸国はウクライナに対して大量の装備品や兵器を供与したが、ウクライナ軍の基本的な装備は旧ソ連時代のものだ。そのため、放棄されたロシアの装備は、たとえ動かなくてもスペアパーツとして活用可能だ。
フランス・パリに拠点を置く研究者ピエール・グラセール(Pierre Grasser)氏は、「破壊された敵軍の車両の装甲を、他の車両の装甲強化に利用できるケースが少なくない」と話す。さらに、「破壊された装甲車両のうち、エンジンやサスペンションなど炎上を免れた部品も重要だ。すべてが貴重で、ロシアでさえもう製造していないものもある」と説明する。
■戦闘力低下
こうした状況についてフランス軍幹部は、ロシア軍自身による利敵行為に当たるとみている。「装備は放棄する際には無力化する」のが普通であり、「ロシア軍の司令部は恐らく、そうした命令を出していないか、(無力化するための)装備を持っていないかのどちらかだ」と推測する。
ジェーンズの匿名アナリストは、「装備の喪失は戦場でのロシア軍の戦闘力を著しく低下させている上、広大な支配地を短期間のうちに失うことに伴う敗北感は、ロシア軍の士気に破滅的な影響を及ぼしている」と解説する。
同アナリストは「ウクライナ軍内部では、ハルキウで反転攻勢を始めた際には(自軍は)機械化旅団だったのが、終わってみれば機甲旅団になっていた、といった冗談まで飛び出している」と話す。
さらに、長期的に見れば、鹵獲は「西側情報機関や技術者がロシア軍の装備を評価する機会をもたらす」ことになり、ウクライナを支援する西側諸国にとっても利益があると述べている。