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繰り返される教師の「不適切指導」 再発防止願う遺族

2019年に熊本市の中学1年生の男子生徒が自殺した問題で、市の第三者委員会は24日、小学6年時の担任の不適切指導との関連性を認める調査報告書を公表した。会見で両親は「子どもが亡くなってから3年半の月日がとても長く感じられた。報告書が提出されたことが、一つの節目になったと思っている」と話した。

 報告書では、亡くなった男子生徒以外への体罰や暴言についても指摘された。母親(48)は「ほかの被害者の子どもさんや親御さんたちの思いもあって、なんとかしてこの件がしっかりと調査され、この先生の問題が公になって適切に処分されること、そういった望みを抱いて頑張ってきました」と振り返った。

 一方で、「報告書ができただけでは再発防止にはつながらない」とし「調査報告書は遺族にとっては慰霊碑のようなもの。このようなことが二度と起こらないように、みなさんの記憶の中に留めていただくことが大切だと思っている」と述べた。教諭を擁護する保護者や地域の人もいるとして、そういった人たちにも読んでほしいと願った。報告書は市のホームページに掲載されている。

 教員の不適切な指導により子どもが亡くなったり、苦しめられたりする事案は各地で起き続けている。

 屋久島で遺族のための保養所を運営する山田優美子さん(53)は、2011年に愛知の県立高校2年の次男・恭平さんを亡くした。大好きだった野球を続けようと入部した野球部で恭平さんは教諭の暴力を見聞きし、自身もパワハラを受けていたという。部活動を休み、教諭に呼び出された3日後に命を絶った。14年に第三者委員会は、「体罰を見聞きしたことなどで心を痛めたことを重視しなければならない」と結論付けた。

 顔を出して問題を訴えた山田さんの元には全国から、教員の体罰や暴言に悩む親や遺族からの相談が寄せられている。「(同様の問題が)なくなっていないことは残念なこと。ただ、耐えられないのが悪いという雰囲気があった当時よりも、最近は表面化することが増えたのは進歩。それでも氷山の一角だろう」と山田さんはみる。

 恭平さんは亡くなる前、教員が部員を殴っていることなどを家でも話していた。いつもテスト前にはきちんと勉強していたのに、ずっとパソコンを見ているなど様子の変化もあった。だが、まさか亡くなるとは思わなかった。後悔は消えない。

 当時の学校や県教委の対応は納得いくものではなく「学校や行政は親の自責の念につけ込んで学校のあり方を振り返ろうとしない」と感じた。亡くなった時点でははっきりと原因は分からなくても、学校にいた生徒が、1人亡くなった時点で、当たり前にきちんと調査をして向き合ってほしい。「お互いが何かできたんじゃないかということを持ち寄って、再発防止につなげていきたいのに」

 調査委員会が出した再発防止策がほとんど生かされていないともみる。「再発防止を学校や自治体がどう真摯(しんし)にやってくれるかということが必要。報告書を活用してもらえたら、恭平が次の誰かを救ったと思える」

 鹿児島県奄美市では、15年に市立中学1年の男子生徒が自死した。市の第三者委員会は18年、生徒をいじめの加害者と誤認した担任の指導と家庭訪問が不適切で心理的に追い詰められた末の自死と認定した。

 サッカー部で試合にも出て、勉強もまじめにする活発な子だったと、男子生徒の父親(44)は振り返る。学校でのことをよく話す子で、担任に対する不満を聞いていたが、学校には言わないでほしいという本人の気持ちを尊重した。「指導死は必ず防げるチャンスがある。それがやるせない」と悔やみ続ける。

 昨年には、全国の指導死の遺族で「安全な生徒指導を考える会」をつくった。文部科学省の生徒指導に関する手引「生徒指導提要」の改訂に対する要望書も同省に提出。生徒指導を行う際に子どもに弁明と意見表明の機会を与えることの重要性などを訴え、善意の指導でも手順や配慮が守られないことで追い詰めてしまうことがあるとして、実際にあった不適切な事例を示すことなどを求めた。

 今年8月に示された改訂案では、不適切指導の項目が目次に入り、具体例も記載された。「これが教育現場に周知され、浸透するかどうかが重要」とし、真の再発防止に向けた取り組みを願っている。(堀越理菜)

■「指導死」を防ぐために必要なこと■

・子どもに指導する際は事実確認を十分に行い、子どもに弁明と意見表明の機会を与える

・威圧的な態度、感情的な言動で指導しない

・管理職による教員への指導の徹底、体罰および不適切指導をした教員への処分の徹底

・「自分が悪い」と子どもたちが思ってしまうことがあるが、子どもや保護者に体罰や暴言は絶対だめだと教える

体罰は犯罪だという認識を持ち、刑事事件化させる

・指導死事案が発生した場合、第三者による調査を実施する。調査報告書を受けた学校や教育委員会は子どもの死に向き合い、自ら主体的検証を行い、検証内容と再発防止策を公表し、実施する

・学校や教育委員会は、第三者調査の結果や検証内容、再発防止策を保護者や地域へ説明する場を設ける

・再発防止策の実施状況を評価検証する仕組みを作る。その仕組みに、学校や教育委員会に対して直接指導や改善勧告する権限を付与する